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とどろく空の眠る地65 14Fドラゴンウーオンリー (78)ダイ あらぶる空の水脈67 13F無無無からドラゴンウーオンリー (30)アイザック 残された夢の眠る地67 14F無無無からドラゴンウーオンリー (0B)ダイ とどろく獣の眠る地70 14Fドラゴンウーオンリー (57)ひまわり (7E)コハル あらぶる大地の眠る地79 11F敵無からドラゴンウーオンリー (8A)ダイ あらぶる運命の世界80 14F敵無からドラゴンウーオンリー (07)ダイ 見えざる神々の眠る地89 11Fドラゴンウーオンリー (88)ひまわり 残された風の世界55 10F敵無からあんこくまじんオンリー (18)アイザック (81)アイザック 見えざる空の氷河64 13F敵無からあんこくまじんオンリー (8E)ダイ・コハル あらぶる大地の氷河73 13Fあんこくまじんオンリー (88)ダイ 大いなる影の凍土77 10F敵無からあんこくまじんオンリー (25)コハル とどろく運命の雪原78 15Fあんこくまじんオンリー (69)ダイ 大いなる獣の世界80 12Fあんこくまじんオンリー (01)ダイ 大いなる影の世界80 10F敵無からあんこくまじんオンリー (25)ダイ 見えざる空の凍土83 14F敵無からあんこくまじんオンリー (74)ダイ 大いなる神々の墓場83 10F敵無からあんこくまじんオンリー (25)ダイ 残された魂の凍土94 13F敵無からあんこくまじんオンリー (7E)アイザック
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大いなる空の墓場58 14Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (19)ダイ 残された夢の世界61 14Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (47)コハル 残された風の世界64 14F敵無からゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (8B)ダイ 大いなる空の遺跡72 14Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (7D)ダイ 残された影の迷宮74 13Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (7F)アイザック 見えざる獣の迷宮74 15Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (5F)ダイ とどろく大地の迷宮81 13F敵無からゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (0B)アイザック とどろく空の迷宮82 13Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (14)ダイ (7D)ダイ・アイザック (93)ダイ 見えざる運命の遺跡85 16Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (79)アイザック とどろく獣の迷宮86 16Fゴールドマジンガ+ファイナルウェポン (64)ダイ
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大いなる空の墓場58 14Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (19)ダイ 残された夢の世界61 14Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (47)コハル 残された風の世界64 14F敵無からゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (8B)ダイ とどろく獣の迷宮70 14Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (83)ダイ 大いなる空の遺跡72 14Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (7D)ダイ 残された影の迷宮74 13Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (7F)アイザック 見えざる獣の迷宮74 15Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (5F)ダイ (75)アイザック とどろく大地の迷宮81 13F敵無からゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (0B)アイザック とどろく空の迷宮82 13Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (14)ダイ (7D)ダイ・アイザック (93)ダイ 見えざる運命の遺跡85 16Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (79)アイザック とどろく獣の迷宮86 16Fゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (64)ダイ 見えざる光の迷宮86 13F敵無からゴールドマジンガ×ファイナルウェポン (17)アイザック
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怒れる魂の坑道55 9Fラストテンツクオンリー (3C)ダイ 怒れる影の巣73 無無無から16Fマポレーナオンリー (2B)ダイ 放たれし闇の巣68 10Fナイトリッチオンリー (4C)アイザック 放たれし闇の巣71 10Fナイトリッチオンリー (4C)ダイ とどろく悪霊の眠る地88 14Fまかいファイターオンリー (57)アイザック けだかき運命の雪原77 11Fアカイライオンリー (4D)ダイ 呪われし大地の巣77 14Fれんごくまちょうオンリー (0B)コハル
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23 虚無と宰相 前ページ次ページ虚無と獣王 宝物庫でクロコダインを待っていたのは意外な面子だった。 呼びつけた本人であるオールド・オスマンは、この場にいて当然である。主であるところのルイズもまあいいとしよう。 しかし、なぜ王女と宰相が同席しているのか。部屋の隅に緊張した面持ちのギーシュがいるのも解せない話ではあった。 「ああ、呼びつけたりしてすまなかったの」 オスマンはそう挨拶したが、その顔色は優れているとは言い難い。 「いや、それはいいんだが……」 クロコダインも言葉に詰まる。 何か問題が起きたのだろうと思ってはいたが、まさか国のトップが絡んでいると言うのだろうか。 「ここまで来てもらったのは、ちと考えを聞かせて欲しかったからでの。まあ、それ次第では色々と動いて貰う事になるやもしれん」 浮かない顔つきのまま語り始めたオスマンを制して、クロコダインはルイズと並んで座っているアンリエッタを見つめた。 「その前に、そちらにおられるのはこの国の王女殿とお見受けするのだが……」 その言葉に、アンリエッタは優雅に立ち上がって一礼する。 「はじめまして、アンリエッタ・ド・トリイテインと申します。貴方の事はルイズから聞かせてもらいましたわ、頼もしい使い魔さん」 クロコダインも王女の前で片膝を付いて答えた。 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔、クロコダインと申します。以後お見知りおきを」 クロコダインが王家の人間に敬意を示す様子に、ルイズたちは少し驚いていた。普段の豪放磊落で武人肌という印象とは違った姿を見た気分だったのだ。 その姿から粗野に見られがちなクロコダインだが、その実力を認めた者や女子供に対して礼を尽くすタイプである。 魔王軍時代は大魔王バーンや魔軍司令ハドラー、正義の使徒となってからはレオナやフローラ、ロン・ベルク、アバンといった面々に敬語で接していたし、占い師のメルルにも最初はお嬢さんと呼びかけている。 続いてマザリーニが短く自己紹介し、クロコダインもまたそれに答える。 その様子を見届けた後、オスマンは本題に入った。 「さて、こちらとしても大筋では話を把握しとるが何分よく聞き取れなんだ部分もあっての。ここはミス・ヴァリエールから事の次第を説明してもらえるかの?」 突然話を振られたルイズは思わずアンリエッタを見るが、王女がどこか複雑な表情を浮かべながらも頷いた為、さっき聞かされた事を順に話し始めるのだった。 ルイズが話し終わると、宝物庫は沈黙に包まれた。 王女と学生二名はともかく、クロコダインを含めた大人たちは難しい表情をしていたりこめかみを指で強く押さえていたり天井を見上げ何者かに対し呪いの言葉を小声で呟いていたりする。 まあずっとそのままでいる訳にもいかないと思ったのか、復活したオスマンはルイズに声を掛けた。 「……あー、ありがとうミス・ヴァリエール。実に分かりやすい説明じゃった」 「分かっているかと思いますが、この事は絶対に他言無用ですぞ」 次にやや強い口調でマザリーニが釘を刺す。キツイ言い方をしていいのならば、ぶっちゃけた話これは王家の恥と言っても過言ではない。 そんな重大事項を自覚もなしに吹聴される訳にはいかなかった。 そしてクロコダインが重々しい口調で尋ねる。 「オレは正直、国と国との情勢などには詳しくないのだが、この手紙を回収するのは学生にとってかなり厳しいのではないですかな」 ふむ、とオスマンは一応考える振りをしてから答えた。 「ま、一人前の兵士でも超キビシイじゃろうな」 「既にアルビオン王の手勢は1000名を割り込んでいます。対する貴族派は推定5万、今にもニュー・カッスルを攻め落とさんとしている様ですから」 加えてマザリーニが冷静に身も蓋も無い現状を指摘する。 「それでもっ! この任務は遂行しなければならないでしょう!」 悲観的な事しか言わない大人たちに業を煮やしたのか、思わずルイズは声を上げていた。 「不埒な貴族派がアルビオンを制したら次は我が国が標的になるのでしょう? その為にゲルマニアとの同盟を結んだのではないのですか!」 言外にアンリエッタの婚姻についての非難を込めながら、なおもルイズは言葉を重ねる。 「確かに困難な任務でしょうが、仕えるべき王家の為に、また力のない平民たちを守る為にも誰かが行かなければなりません」 ルイズの後ろではギーシュがうんうんと賛同の意を示し、アンリエッタは『おともだち』の熱弁に感激し目に涙を浮かばせていた。 ギャラリーがいなかったら確実に抱きついていた事だろう。 一方でマザリーニとオスマンは(若い衆は無闇に熱いな)等と思っていたが、そんな事はおくびにも出さなかった。 「確かにミス・ヴァリエールの言われる通り、誰かがアルビオンまで行く必要があります。ただ、私たちは常に最悪の想定をした上で動く事を求められます」 「ちなみにこの場合の『最悪』とは何か、ちと言ってみて貰えるかの?」 オスマンの問いに対し、アンリエッタとギーシュは「手紙の回収が出来ない」と答えた。 ルイズは上記2人と概ね同じ意見だったが、「同盟の話が流れてしまう」と付け加えた。 そしてクロコダインは、「任務が失敗して全員生きて帰ってこれない」と言った。 使い魔の答えにぎょっとするルイズたちを尻目に、オスマンは頷く。 「間違ってはおらんの。まあ全員の答えを合わせてなお足りない部分があるのも確かじゃが」 正直なところ、アルビオン行きが高い確率で死に繋がるという実感など持ち合わせていなかった学生2人と王女だったが、まだ付け加える様な不吉な事があるのかと思った。 そんな彼女たちに正解を冷静に告げたのはマザリーニである。 「手紙の回収に失敗し使者は全員死亡。ゲルマニアとの軍事同盟は破棄。更にトリステイン国内は王党派とレコン・キスタのシンパ、そしてヴァリエール・グラモン同盟軍の三つ巴の戦いになる」 一瞬の間を置いて、ルイズとギーシュは猛烈に反発した。 「お言葉ですが! 枢機卿はわが父の王家への忠誠をお疑いなのですか!」 「父様は国家の危機を前にして反旗を翻す様な真似はしません!」 特にルイズは父であるヴァリエール公爵から常々マザリーニに対する苦言を耳にしていた。 礼儀を重んじる父が一国の宰相に対し『鳥の骨』などという俗称を使っているのだから余程馬が合わないのだろうと思っていたが、こんな事を言うのならそれも納得である。 曖昧な噂で人を判断してはいけないという母の教えを守り、これまでマザリーニに含む処は持たないようにしてきたが、今この瞬間からルイズは『鳥の骨』を嫌いになる事に決めた。 ギーシュも似たような環境で育っていたので、同級生と似たような感想を抱いたようである。 一方マザリーニは2人の抗議に怯む様子もなく、あっさりと言った。 「ヴァリエール公爵もグラモン伯爵も王家への忠誠心は高く、その忠義は右に出る者なしと言っていいでしょう。しかし、彼らは同時に良き家庭人でもある」 「飲むたびに嫁と子供自慢聞かされるしの。特にヴァリエールの方は」 補足と言うか茶々を入れるオスマンに、マザリーニは表情を崩して言った。 「神に身を捧げた私に堂々と愛妻を自慢するのはやめてくれと老師から言っては貰えませんか。特に公爵の方に」 「言っても無駄な事は言わん主義じゃ」 「教育者としてそれはどうかと。話を戻しますが、もう目に入れても痛くないと公言している末娘がこんな事で非業の死を遂げなどしたら、速攻で王宮を落としにかかるでしょうな」 まあその前に堂々と声明文を送りつけてくるでしょうが、という最後の分析にオスマンはさもありなんと笑う。 ここで頭に血が昇っていたルイズがやや落ち着きを取り戻した。落ちこぼれの自分を父がそれほど重要視しているかはともかく、何故政敵である筈のマザリーニがこんな分析をするのか。 これではまるで2人は昔からの親友のように思えてしまう。 しかし、ついさっき嫌いになると決めた相手にそんな事を聞くのも憚られる気がする。一体どうしたものか。 ルイズがそんなある意味どうでもいい事を考えていると、隣の幼馴染(天然)が素直な疑問を口にした。 「貴方とヴァリエール公はあまり仲がよろしくないと聞き及んでいたのですが、違うのですか?」 「姫様、直球過ぎです!」 もう少しぼかしましょうと思わずツッコミを入れるルイズに苦笑しながらも、マザリーニは至極あっさり風味に答えた。 「仲は悪いですよ。少なくとも30年程前に1人の女性を巡って決闘騒ぎを起こす位には」 「……は?」 余りと言えば余りの答えに呆然とするルイズとギーシュ、そして驚きながらも微妙に目を輝かせるアンリエッタ。 そしてオスマンはどこか遠くを見つめながら呟く。 「ああ、そんなこともあったのう。今考えても酷いオチじゃったが」 「ええ、当の女性に『王宮での決闘は禁止事項でしょう!』とカッタートルネードを喰らいましたからな。全くもって酷いオチでした」 この時点でひどく嫌な予感がするルイズであったが、彼らの回想はまだ続いていく。 「切り刻まれながら天井に磔状態ってのも随分心が冷えるのう。あれはマジ死ぬかと思ったぞ」 「そう言えば颯爽と見届け役を買って出て颯爽と巻き込まれてましたな老師。しかし冷えるのは心だけですか? 私などは体温が急低下しましたが。その後で何故か始祖の姿を見た気がしますし」 「臨死体験などそうそう出来ることじゃないぞ? いい思い出になったの」 あっはっはと笑いあう中年と老年を、10代3名はアメイジングなモノを見る目で見つめた。 「まあそんな経緯もあって仲は悪いと言っていいでしょうね。娘の誕生日ごとに画家に描かせた絵を見せつけてここが私に似ているとか自慢するなど嫌がらせにも程があります」 「今はそれなりに落ち着いたが、昔は末娘が初めて立ったり初めて『とうさま(はぁと)』と言ったりしただけで呼び出されて飲まされてしこたま自慢聞かされまくったからのー」 「タダ酒が飲めるぜヒャッホウとか言って毎回喜々として参加されていたではありませんか」 「何か言ったか? 年のせいか最近耳が遠くなってな」 話題が逸れまくる大人たちを前に、ルイズは1人頭を抱えていた。 謹厳にして実直、理想の貴族像のひとつとして目標にしてきた父親像が今まさに音を立てて崩れ去って行く。それはもう凄い勢いでガラガラと。 そういえば、成績優秀眉目秀麗性格意地悪にして生真面目な上の姉が『格差を是正し、資源を豊かにする会』の創設者兼名誉顧問と発覚した時も脱力したものだったが、今回はそれ以上の衝撃であった。 「仲がいいのは良く判ったから、そろそろ話を戻してもらえるかな?」 主へのダメージをこれ以上増やさない為、という訳でもないのだろうがクロコダインが軌道修正を図る。 「やはり危険ですわ。ルイズ、わたくしの我侭で貴女を危険にさらすわけには行きません。誰か他の者に頼むことは出来ないのですか?」 マザリーニの暴露話はともかく、アンリエッタもかつて自分が出した手紙が『おともだち』の命に関わる事態になった事に慄き、幼馴染を止めにかかった。 「と、言われてものう」 ぬう、と悩むオスマンに対し、マザリーニは元来の怜悧さを発揮していた。 「正直に言えば、姫様の選択も全くの的外れという訳ではありません。例えば学生を使者に選ぶのは、今回の場合に限りますが有効ではあります」 「と言うと?」 素人同然の者を死地に送り込む事に抵抗を感じていたクロコダインが続きを促す。 「既に王宮内に敵勢力のシンパがいるのは確実ですが、我々はその全容を把握していません。しかし学院生ならば寮生活で外部との接触は制限されていますし、レコン・キスタと繋がっている可能性は低いと思われます」 「うっかり敵のスパイに手紙の回収なんぞ任せたらエライ目にあうわな」 オスマンが一応、と言う感じのフォローを入れる。レコン・キスタもわざわざ使いにくい学生を仲間にはしないじゃろ、とはあえて言わないでおく事にしたようだ。 マザリーニは更に続ける。 「次にヴァリエール嬢に依頼した点についてですが、使者の身分としては悪くありません」 ひょっとしたら、と言うかほぼ確実にアルビオン王家への最後の使者であり、非公式ながら王族への謁見が必要とされる任務である。まさか平民を当てる訳にはいかない。 王党派は最大限の警戒をしているであろうし、下手に下級貴族など送っては門前払いにされかねないのだ。 しかし、敵に通じていない大物貴族を使者にするとなると某公爵とか某元帥とかになる訳で、それはそれで問題である。大物すぎて使者にできない。 その点において、筆頭公爵家の一員であるルイズは割と絶妙な選択であると言えるだろう。当然その身分を証明する書類やらなにやらが必要ではあるが。 「その辺はまあ何とかなるじゃろ、というか、せにゃならん」 基本的に事務仕事が好きではないオスマンがため息交じりに言った。 「更にヴァリエール嬢たちは『土くれのフーケ』を見事に捕らえたという実績がある。多少の荒事ならば潜り抜けられる力を持っていると言えます」 いえだからそれは私だけの力ではないですし、というルイズの言葉は意図的にスルーされた。 ギーシュはともかくクロコダインが同行してくれれば、戦力と言う面では安心できるからだ。 「何より重要なのは、我々には時間がないという事です。不穏分子を見つける余裕がない以上、信頼できる人材は金剛石よりも貴重ですから、その他の要因にはこの際目を瞑りましょう」 そう言ってマザリーニは話を終えた。 「では、やはり私たちがアルビオンへ行った方が良いと、そう考えてよろしいですか?」 ルイズの確認にマザリーニは無言で頷いたが、内心では首を横に振っている。 これまで国を守るために数多くの者たちを死地に送り込み、それを後悔した事はなかった。しかし今回の一件に関しては別だ。 表向きは犬猿の仲だが実際には30年来の親友と、一度は還俗すら考えた片恋の女性の間に生まれた娘を危険に晒すというのは辣腕を謳われる彼にしても抵抗があった。 先程並べ立てた『いかにルイズが任務に適任か』についても、実際には理由を口にする事で自分自身を納得させようとしていたに過ぎない。 手紙は既にウェールズ王子の手によって破棄されているのではないかとも思うが、希望的観測は禁物である。 (これも偽善と呼ばれるのでしょうね) もしルイズの両親が個人的な知己でなければ何の感慨もなく彼女をアルビオンに送りだしている事に、マザリーニは気付いていた。 間違いなく自分は始祖の元には行く資格はない。宰相となってから幾度となく感じた事ではあるが今回は極め付けだと思いながら、マザリーニはルイズを見つめた。 「手紙に関しては回収に拘り過ぎないで下さい。状況によってはその場で廃棄しても結構ですし、回収不能と思えたら即座に引き返すように」 「お待ち下さい! それでは」 抗議しようとするルイズを手で制したのはクロコダインだった。 「手紙が回収出来なかったとして、宰相殿はどのような対応を取られるつもりかな」 「しらばっくれます。それは敵が卑怯にもでっちあげた偽書である、とね」 マザリーニは宰相らしからぬ表現でしれっと言い放った。横にいたオスマンが肩をすくめながら続ける。 「素直に『そうするしかない』と言わんか。ま、あちらさんも本物と証明する手段があるとは思えんがの」 幸か不幸か、アンリエッタはこれまで公式文書などに自筆のサインを残したことはない。当然見比べる事も出来ないので偽物と言い張れない訳ではないのだ。 無論、それでゲルマニアが納得するかどうかは別問題である。婚礼前にそんなスキャンダルが発覚した時点で破談を言い渡されてもおかしくはない。 アンリエッタもその事はしっかり認識していたが、それよりも今は幼馴染のこれからの方が心配だった。 そもそも彼女はルイズに何とかして貰おうと思っていた訳では無く、話の流れでつい口を滑らせてしまったに過ぎない。 故に彼女は手紙の奪還より生還を求めるマザリーニの意見には全面的に賛成した。 「ルイズ、貴女だけではなくこの学院の生徒たちは、これからのトリステインを支えていく大事な宝です。貴族としての矜持より、先ずは生き残る事を優先して下さい」 「姫さま……」 アンリエッタの心配そうな顔に、ルイズは微笑を返す。 「大丈夫です。ちゃんと手紙を回収して必ず帰ってきますから、どうかご安心を」 友人の言葉を聴いてもなお不安の晴れないアンリエッタであったが、ふと何かを思いついたらしく自身の右薬指から大きな指輪を外し始めた。 「これはわたくしが母君から頂いた『水のルビー』です。せめてものお守りです、どうか持っていって下さい」 「そんな! 大切なものではありませんか」 しきりに恐縮するルイズに王女はコロコロと笑った。 「大丈夫ですよ、もしお金に困ったら売り払って旅費に当てても」 そんな2人の少女が織り成す美しい友情シーンを、しわがれた声が水を差した。 「まてまてまてまてまてまてまてまて」 声の主は言うまでもなくオールド・オスマンなのだが明らかに余裕が無い。どれくらいないかと言うと、王族に対する敬意を忘れてしまう位。 「……あー、身分証明としてはある意味最適でしょうが、売り払うのは勘弁してもらえますか? それは初代トリステイン王が始祖より賜わった秘宝の一つなので」 もう何か疲れ切ったという感じのマザリーニが投げやりな補足を入れる。 そしてルイズは自分の掌にある指輪の価値に思わず引き攣った。つまりこれは6千年前より伝わるトリステインの国宝なのである。 始祖の祈祷書と並んで戴冠式などの国家行事に使用されるもので、こんなもの売ろうと思っても絶対に値は付かない。 「そそそそそそそんな貴重品を持たせないで下さい! 身分証明なら書類か何かでいいですから! お守りは姫様のお気持ち1つで充分ですし!」 正直触るのも怖い、という風情のルイズだったが、返ってきた言葉は非情だった。 「売ったり無くしたりしないのであれば、確かにまたとない証明です。王族の信頼を受けているという事にもなりますので持って行って下さい」 そんなご無体な、という内心を覆い隠しつつルイズは近くにいたが会話に入れなかったギーシュに声を掛ける。 「ねえギーシュ、私が無くすといけないからちょっと責任もって預かっててくれる?」 「ははは、これは君らしくもない事を言うじゃないか! まさかそんな大切なものを、この『青銅』がうっかり落とさないとでも思っているのかい?」 胸を張って言うことじゃないだろうとギーシュ以外の全員が思った。 かといってクロコダインに預けるわけにも行かない。戦闘時に矢面に立つ立場の彼が秘宝を持っていると、敵の攻撃等で指輪に傷がついたり紛失したりする可能性があるからだ。 消去法で自分が持つしかないと判ったので、仕方なく覚悟を決めたルイズは「お預かりします」と言って水のルビーを指に嵌める。 そんな光景を見ながら、クロコダインはこっそりと溜息をついた。 どうにも危険な場所に行きたがる傾向がある主だが、もちろん放っておくつもりは少しもない。 彼女が行くしかないというのなら、全力であらゆる危機からルイズを守る盾になるだけだと、クロコダインは決意を新たにするのだった。 「さて、概ね話しが纏まったところで、お主ら2人は部屋で休んでもらおうかの」 オスマンの言葉にルイズとギーシュは顔を見合わせた。 確かに今は夜だが、正直寝るにはまだ早い。 「今回の任務は時間との勝負になりますが、流石に今すぐ出発するわけには行きません。人目を避けて貰う必要もあるので出発は明日の早朝がいいでしょう」 アルビオンまではかなりの強行軍になる。少しでも体力を蓄えておいて欲しいというのがオスマンらの考えであった。 「取り敢えず服や私物の準備だけしておいて下さい。旅費や必要な物に関してはこちらで準備しておきますので」 「クロコダイン殿にはもう少し残っていて貰おうか。色々と打ち合わせておきたい事もあるでの」 そう言いながらオスマンは短く呪文を唱える。すると床の石材があっという間に2メイル程の屈強なゴーレムになった。その肩に一匹のネズミが飛び乗る。 「姫様もそろそろお部屋でお休み下され。このゴーレムとモートソグニルがお送り致しますでの」 そこでふとルイズが宝物庫から出ようとしていたギーシュに尋ねた。 「そういえばギーシュ、あんたどうしてわたしの部屋の前にいたの?」 当たり前の話だが、基本的に女子寮というものは男子禁制が掟である。 もっともいつからかその掟は形骸化の一途を辿っており、キュルケの部屋などは夜になると男子生徒がドアからも窓からもやってくる有様ではあったのだが。 が、それにしたところでギーシュがルイズの部屋を訪れる理由はない、筈だ。これがモンモランシーの部屋ならば話は別なのだろうが。 「ああ、今日はいつもの近接格闘訓練は休みだっただろう? 少し体を動かそうと思って外にいたら女子寮の前で人影を見つけてね」 そこでギーシュはアンリエッタの方を見て、一瞬口ごもった。視線に気付いたアンリエッタは無言のまま笑顔で続きを促す。 「うん、その、姫殿下付きの侍女だと思ったんだけど、動きが、こう何と言うか、明らかに『誰かに見られないようにしています』的な……」 端的に言うと『あからさまに不審者でした』という内容の事を出来るだけオブラートに包みまくるギーシュであった。 「で、後を付けてきたと?」 ルイズの確認にギーシュは「その通り」と答えたが、実は彼が女子寮に侵入した理由はそれだけではない。 ギーシュは不審者がアンリエッタであると一目で見抜いていたのである。 あまり知られていない事ではあるが、彼には『親しくなった女性のスリーサイズを正確に暗記できる』というレアな特技があった。 そのスキルを生かしてギーシュは不審者の体格が王女のそれと完全に一致しているのを見抜いたのである。 しかしギーシュは別にアンリエッタと親しい訳ではない。では何故彼は特技を発揮させる事が出来たのだろうか。 実は学院来訪時に王女が馬車から下りて学院内に入るまでの間、ギーシュは最前列で、その人生の中で最大限の集中力を発揮してアンリエッタの身体を食い入るように見つめまくっていたのである。 その甲斐あって、彼は初めて見た女性のスリーサイズを服の上から看破するという偉業を達成させたのだ。 もちろんそんな事を明かした日には速攻で斬首刑コースだろうという判断力は持ち合わせていたので口には出さなかったが。 「そういえば、オールド・オスマンもわたくしが部屋から出た事がすぐに分かった様ですが……」 ルイズに便乗するように尋ねるアンリエッタに、ふむ、とオスマンは長いひげを撫でながら答える。 「ミスタ・グラモンと同じ様なものですが、幾ら侍女に顔を変えても歩き方や体捌きが全く違っていましたからの。加えて言えば床に響く足音なども異なっておりましたな」 おお、と学生たちと王女は流石スクエアクラスの土メイジだと素直に感心した。普段はただのセクハラジジイだがやる時はやるものだ、と。 しかし、実の所オスマンが王女の偽装を見破った理由はもう1つあった。 全く知られていない事ではあるが、彼は『あらゆる女性のスリーサイズを服の上からでも瞬時に把握する』というレアというよりアレにも程がある特技の持ち主であった。 当然の事ながらオスマンは王女及び侍女たちの体のサイズを完璧に暗記していたので、部屋から出てきた侍女のプロポーションが明らかに違っている事にすぐ気付いたのだ。 ちなみにこの男、使い魔との感覚共有を生かしまくって女子生徒やメイドたちのスリーサイズも一人残らず把握していたりする。 伊達に齢100とも300とも言われてはいない、まさに男の夢をある意味体現しているメイジなのであった。 勿論そんな事を明かした日には超速攻でタコ殴りにされた上で拷問を受けた挙句に絞首刑コースだろう事は想像するまでもなく明らかだったので口には出さなかったが。 久し振りに尊敬の目で見られている事に感動しているオスマンを見て(うわネタばらししたい)と思うマザリーニであったが、一応は世話になった恩師であるし今はそれどころの話ではないので自重する。 「さ、それ位にして本当に部屋に戻って休んでください」 枢機卿の方が余程教師らしいのではないか、と思いつつルイズたちは宝物庫から退出して行った。 ルイズとギーシュはそれぞれ自室へと戻り、アンリエッタは護衛代わりのゴーレムと共に宛がわれた貴賓室へと向かう。 部屋の前で驚く魔法衛視隊の隊員には内密の会合があったと誤魔化して、彼女はベッドに座り込んだ。 勿論ゴーレムとモートソグニルは部屋の中にアンリエッタが入るのを確認して引き返している。 今彼女の脳裏に浮かぶのは白の国にいる想い人の顔と、久し振りに会った幼馴染の姿。 2人とも大切な存在なのに、1人は戦場と化した隣国で追い詰められており、もう1人はその隣国へ向かう事になった。 その理由が自分の不始末という現実に打ちのめされそうになるが、今更止められようもない。 だが、幾ら王宮で蝶よ華よと育てられた王女であっても、戦場に一介の学生が向かうのが危険だという事はよく分かる。 大人数で任務に赴くのは論外だが、せめてもう1人くらい腕の立つ護衛はつけられないだろうか。 そこでふとアンリエッタは学院に到着する前、馬車の中でのある出来事を思い出した。気分の優れない自分に花を手渡したグリフォン隊の隊長、ワルド子爵。確か二つ名は『閃光』と言ったか。 彼にルイズたちの護衛を頼むというのはどうだろう。 そうだ、幾らレコン・キスタのスパイが王宮内にいるとしても、枢機卿の腹心であるならばそんな心配もないに違いない。 それにマザリーニの説明によると、彼はかなりの実力の持ち主だという。子爵ならばきっとルイズの力になってくれる。 思いついた妙案をすぐに実行に移すべく、アンリエッタは扉の向こうに控えている護衛を呼ぶのだった。 翌早朝。 ルイズは普段ならまだ寝ている時間に起き、昨夜のうちに準備しておいた荷物を持って裏門へと向かった。 フーケ襲撃以降、学内の見回りは教師陣と衛兵がコンビを組んで絶えず行われていたが、この時間なら裏門はノーマークだという事を学院長から教わっている。 一応周囲を気にしてはいたが誰にも見つかる事なく、ルイズは裏門へと辿り着いた。 「やあ」 「おはよう」 そこには既にギーシュとクロコダインが待っていた。 クロコダインの隣には大きな革袋を乗せた馬が2頭用意されている。 革袋にはオスマンが大慌てで手配した路銀や携帯しやすい非常食、高価な水の秘薬などが入っているらしい。 魔法が失敗してしまうルイズは勿論、ギーシュも土のドットメイジであり、水系統の回復呪文ははっきりいって得手ではないが、それでも無いよりは有った方がいいというのが学院長の言い分だった。 「でも、どうして馬なの?」 つい先日、ワイバーンを仲間にした所である。どう考えても馬より早く目的地に着く筈だ。 実はルイズたちが寮に戻った後、オスマン、マザリーニとクロコダインの間で様々な打ち合わせが為されていた。 その結果、ここから馬で近くの森まで進み、そこからワイバーンで一気に進むという計画になったのである。 すぐにワイバーンを出さないのは、幾ら早朝とはいえあんなもん呼び出したら目立ちすぎるからだ。 港町であるラ・ロシェールに着いたらひとまず情報収集を兼ねた休憩を取り、フネの手配をする。 上手く予約できればそれで良し、出来ない場合は王女及び宰相連名の書類を使って徴用するか、ワイバーンで直接白の国へ行くも良し、との説明にルイズはなるほどと頷いた。 「先ずは急ごう」 短距離ならば馬と同じ程度の速さで駆けるというクロコダインに、しかし待ったをかけたのはギーシュだった。 「すまない、ぼくの使い魔も一緒に連れていけないかな」 「ヴェルダンデを?」 クロコダインが聞き返すのと同時にルイズの足下が突然盛り上がった。 短く悲鳴を上げるルイズに熊ほどの大きさのジャイアント・モールがのし掛かろうとし始める。 「ちょ、ちょっとギーシュ、アルビオンまでコレを連れていこうっての?」 「そうだよ、こう見えてヴェルダンデは馬並のスピードで土の中を進むことができるんだ」 「それはいいけど目的地はアルビオンよ、その意味分かってる? ていうか何でわたしに襲いかかってんのこのモグラはー!」 「……そういえば! ま、まあフネが確保できれば大丈夫だよ、多分。そうに決まってる。ていうかどうしたんだいヴェルダンデ、ルイズは君の大好きなどばどばミミズじゃないよ?」 さりげにひどいことを言うギーシュである。 「どうやらルイズの持っている何かに反応しているようだな」 クロコダインの分析にギーシュは思い当たる事があった。 「ルイズ、ヴェルダンデは君の持っている水のルビーに反応してるんだ。彼は光り物に目がなくてね」 「なくてね、とかノンキに解説してないで止めなさいよ!」 もっともな意見である。 確かにここで国宝に何かあったらぼくも死刑だろうしなあ、とギーシュが使い魔を止めに入ろうとした時、横にいたクロコダインが突然ルイズの元に走りグレイトアックスを抜いた。 「誰だ!」 突然の行動に驚くルイズたちの前に現れたのは、朝靄を吹き飛ばしながら舞い降りたグリフォンに跨る青年であった。 羽帽子に有翼獅子の紋章が縫い込まれたマント、魔法衛視隊の制服に身を包んだ美丈夫である。 「失礼、どうやら間にあったようだね」 青年は害意がないのを示すようにゆっくりとグリフォンから降り立った。 「魔法衛士隊が1つ、グリフォン隊隊長のジャン・ジャック・ワルド子爵だ。姫殿下より今回の任務に同行せよとの命を受けて参上した」 前ページ次ページ虚無と獣王
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前ページ次ページ虚無と獣王 13 虚無と怪盗 「ちょっと気になってる事があるんだけど」 ウルの月、フレイヤ、虚無の曜日。 休日という事で訓練は無し、と言っていたにも拘らず夕食後になるといつものメンバーが集まってきていた。 虚無の曜日には唯ひたすら怠惰に過ごすと公言して憚らないギーシュまでもが来ていたが、訓練自体は行わず雑談に興じている。 ルイズが王都で買ってきた戦斧用の革紐を渡したり、それを見たキュルケが茶々を入れたり、長大だが流麗なデザインの戦斧をギムリたちが見たがったり。 そんな中で、レイナールがルイズに向かって話し掛けたのが、冒頭の台詞である。 「何?」 「ひょっとして愛の告白?」 「ななななななに言ってるのよキュルケ!」 いつものキュルケのからかいに反応したのはルイズだけで、レイナールはさらっとスルーした。反応すれば相手の思うつぼなのは判っている。 「怒らないで聞いてくれよ。ちょっと言いにくいんだが、ヴァリエールは魔法を使っても常に爆発してしまうんだよな?」 「今わたしはケンカを売られているのかしらよし買ったわ」 キキギ、とルイズの周囲で空気が軋むような錯覚を覚えたレイナールが慌てて言い繕う。 「売ってないものをいきなり買わないでくれないか最初に怒らないでって言ったのに!?」 ルイズは表情を全く変えずに答えた。 「つまり決闘を申し込んでいるのねよし買ったわ」 このままでは話が全く進まないと判断したクロコダインがため息交じりのフォローを入れる。 「少し落ち着けルイズ。それでレイナール、何が気になるんだ」 「なんでそんなに胸が小さいんですか、とか?」 混ぜっ返す事に関しては他の追随を許さないキュルケが絶妙のタイミングで口を挟むが、横で本を読んでいたタバサに杖で軽く頭を叩かれた。 「言い過ぎ」 キュルケは、普段はこういう会話に入ってこない親友がどんな形であれ参加してきた事に驚き、同時に喜びを感じる。 「ごめんね、そりゃタバサも聞いてて余り愉快じゃなかったわよねー。でも大丈夫、タバサはまだ成長期アイタ」 この謝罪はお気に召さなかったようで、また頭を叩かれた。今度はさっきよりも強い。 「続き」 「ん、ああ、えーと、みんな爆発するって言うんだけど、見た事がないからどうも信じがたいんだ。だって魔法理論から言ったっておかしいだろう?」 唐突かつ強引なタバサの路線修正に若干戸惑いながら、レイナールはようやく本題に入る事が出来た。 「おや、君はまだルイズの爆発を見た事が無かったのかい? 違うクラスでも一度くらいは目撃していてもおかしくないだろうに。一度見ておくと危険回避の重要性が理解できるよ」 「正直ぼくたちは見慣れちゃってるからなあ。君の疑問がかえって新鮮だよ。緊急時の対応とか身をもって覚えちゃったし」 同じクラスのギーシュとマリコルヌが好き勝手な事を言うので、ルイズは取り敢えず2人にローキックを放っておいた。 「あいたぁっ!」 「ぼくのふくよかなふとももに鞭のようにしなる蹴撃が!?」 たった一発のローでもんどりうって倒れる様を見て、クロコダインはいい蹴りだと感心するのと同時に仲間の女武闘家を連想した。そういえば髪の色も一緒だな、と。 使い魔にそんな感慨を抱かれているとは露知らず、ルイズはレイナールに向きなおった。彼がからかい目的ではなく純粋に疑問に思っているのは判ったので蹴りは出さずにおく。今のところは。 「あんたが疑問に思うのは当然よ。当のわたしも訳がわからないんだから」 どんな呪文を唱えても爆発してしまう。 四系統魔法はおろかコモンスペルですら例外ではないこの現象は、レイナールが言う通り現在の魔法理論を真っ向から否定するものだ。 そして、そんな事は当のルイズが一番よく理解している事でもあった。 幼い頃は母や姉、雇った家庭教師からもあり得ないと言われ、一縷の希望を託した魔法学院の教師すらも解説できない現象。 入学してから丸一年、自分でも時間の許す限り調べてはみたが、これまで失敗魔法が爆発を引き起こすという事例は見つける事が出来なかった。 そんなルイズにとってレイナールの質問は、理性では理解できても感情では「なに喧嘩売っとるんじゃボケぼてくりこかすぞワリャア」としか反応できないものである。 実際の発言が幾分ソフトなのはまだ理性が働いているからといえよう。 一方のレイナールは、ルイズには悪いと思いながらもどこか納得のいかない表情だった。 実際に目にしていないのに常識外の減少を鵜呑みにするのはどうにも抵抗がある。ルイズたちが嘘を吐いていないのは判っているのだが。 教科書に書いてない事が起きるのはおかしい、そんな頭の固い部分があるのに本人は気付いていない。割と内心が表情に出やすい事にも。 ここで微妙に空気が悪くなるのを感じたキュルケが話題を変えた。 「そういえば聞いた? アルビオンの内戦の話」 「ああ、王党派と貴族派に分裂しているらしいね。戦力は拮抗しているというじゃないか」 ローキックの痛みが和らいだのか、先日の食堂の一件で空気の読めない同級生に煮え湯を飲まされた(あくまで主観上では)ギーシュが話に乗る。 因みにもう1人の犠牲者はまだ転がっていて「たった一言でこの仕打ち! 痛い、でも、ああ……ああ……!!」とか呟いていたが、敢えて無視されていた。 ツッコんだら負け、という認識が何故か全員に行き届いている。VIVA・チームワーク。 「ちょっと、それいつの話よ? 国からの手紙じゃ、貴族派が圧倒的な数で王党派を押してるって話よ。軍人の家系ならもう少し情報を集めた方がいいんじゃない?」 肩をすくめるキュルケにギーシュが反論した。 「待ってくれ、ぼくがこの話を聞いたのは大体2週間くらい前だよ? キュルケこそ、その手紙はいつ貰ったんだ」 「一昨日ね。情報については間違い無い筈よ、実家の商売にも関わる事だし」 2人は顔を見合わせる。お互いの情報が正しいとして、こんな短期間で一方の軍勢が勢力を伸ばせる理由が思いつかないのだ。 「ねね、アルビオンて内戦状態だったの? そんな話聞いてなかったけど」 「ぼくも初耳だよ」 ルイズやギムリの質問に、キュルケはふう、やれやれ的な表情で答える。 「他国相手の商売している連中はとっくに警戒してるわ。まあ学生レベルにはまだ降りてこない情報かしら」 言外に「へー知らないんだーヴァリエール遅れてるー」と優越感を込めつつルイズの愉快な反論を楽しみにしていたキュルケであったが、期待した反応は帰ってこなかった。 つまんないわねどうしたのかしらとそちらを見ると、ルイズは目を点にし汗を流しながらキュルケの後ろを指さしている。 何か言おうとしている様だが口をパクパクさせているだけで言葉が出てこないようだ。 全くもうなんなのよ、と振り向いて、キュルケはルイズと同じ表情になった。 彼女の眼に映ったのは、30メイルはあろうかという巨大なゴーレムが本塔めがけてのっしのっしと歩く姿だったのである。 『土くれ』のフーケは、自らの作りだしたゴーレムの肩に身を伏せながら本塔を睨みつけていた。 神出鬼没の怪盗として名を売る彼女であったが、今回の様に派手な騒ぎを起こす事はこれまでの仕事には無く、正直に言えばモットーに反する。 闇を駆け、影の如く忍び寄り、獲物を捕らえた後は風の様に去る。 盗みに入られる側としてはふざけんなと言いたくなるモットーであるが、一応目撃者を少なくする事で口封じの可能性を減らしたり、護衛に怪我を負わせるのを防いでいる一面もあったりするのだ。 それが何故こんな派手にも程がある行動に出ているのかというと、早急に魔法学院を立ち去らなければならなくなったのである。 当初の予定としては学院の内部に入り込み、ある程度の時間をかけて内部構造を調べ上げた上で、芸術の様に盗んで行く筈だったのだ。 ところが義妹の住む国に内乱が勃発してしまい、色々訳ありの義妹を放置しておく訳にはいかなくなってしまった。 それでも宝物庫から何かちょろまかす時間位はあるかと思っていたら、馴染みの情報屋から「あー、アルビオンな、多分来月まで保たないで、いや王党派ボロ負けやぞ」と今朝がた聞かされた。 もはや一刻の猶予もない、とっとと盗んでさっさとアルビオンに帰らなければとフーケは判断した。 宝物庫の壁にはやたら強力な『固定化』の魔法が掛けられているのはこれまでの調べで分かっている。 その分物理衝撃には弱い、多分弱いと思う、弱いんじゃないかな、まチョット覚悟はしておけと、自分の親くらいの年の癖に変なアプローチをしてくる学院教師から聞き出したのは今日の昼休みの時間。 夕食の後こっそり壁の厚さを確認してみたが、流石に国内有数の宝物庫だけあって自分のゴーレムで破れるかどうかというところだ。 本当ならこの条件下で仕事はしないのだが、もうそんな事を気にしている時間は無かった。 ゴーレムのパンチで壁が破れればそれで良し、破れなくてもこのまま姿を消して故郷に帰ろう。金は無くとも義妹と、共に暮らす孤児たちの護衛くらいは出来る。 そんなことを考えながら、フーケはゴーレムの腕を鉄に『錬金』させた上で塔に殴りかからせるのだった。 「なななななななななによあれ───────────っ!」 ルイズが声を出せるようになったのは、ゴーレムが本塔を殴り始めてからである。 「なんだってあんなゴーレムが魔法学院を攻撃してくるのよ!」 「ぼくが知るもんか!」 ルイズの大声のお陰でキュルケ達も茫然自失状態から復活した。復活しただけで動けはしなかったが。 「ひょっとして『土くれ』のフーケか!?」 そう言ったのはギーシュだが、「でもあんな派手な事するか? 仮にも怪盗だろ」とギムリからの疑問には答えられない。 「ゴーレムが攻撃しているのは多分宝物庫の外壁」 ゴーレムの動きを冷静に観察していたタバサの指摘に、ルイズとレイナールが反応した。 「じゃあやっぱりフーケ!? わたしたちでなんとかしないと!」 「じゃあやっぱりフーケ!? 急いで先生たちに知らせないと!」 180度違う意見に2人は顔を見合わせた。 「ちょっと待って先生たち呼んでくる間に確実に逃げられちゃうわよダメでしょそれは!」 「じゃあ僕たちに何が出来るんだ相手は最低でもトライアングルクラスのメイジなんだぞ!」 がるるるる、と言わんばかりの剣幕のルイズに一歩も引かないレイナール、そんな2人にキュルケが話し掛ける。 「言い争ってる間に動いたら?」 見ればタバサとギムリ、ギーシュは既にゴーレムの方へ向かっており、マリコルヌは逆方向に走っていた。 クロコダインはルイズが動くまで判断を保留しているのか、ゴーレムを警戒しながら主を守るように立っている。 「行くわよクロコダイン!」 ルイズが走り出すのと同時にクロコダインも動く。 「ルイズ、判っているだろうが」 「無茶はしないわ! でも背も向けないわよ!」 フーケは焦っていた。 ゴーレムに渾身の力で攻撃させているにも関わらず、壁には亀裂すら入っていない。 近寄ってきた学生達が魔法で攻撃してくるのは大した妨害にはならないが、逃げ出す時の精神力を考えるとこれ以上時間を掛けたくはない。 教師達を呼ばれて退路を塞がれるのも面倒だ。次の一撃で突破できなかったら逃走しよう。 フーケはゴーレムの手を槍の様に変化させ、助走をつけながら塔へと突き出した。 30メイルもの巨体に通じる魔法は少ない。 ルイズ達はそんな現実を早々に突きつけられていた。 ドットメイジのギーシュ達はともかくとしても、トライアングルクラスのキュルケやタバサの攻撃も碌なダメージを与えられないでいる。 正確にはダメージを与えても、土を補充する事ですぐに回復しているのだ。 一番ダメージを与えているのがクロコダインの戦斧で、振るう度にゴーレムの体が爆発するかの如く吹っ飛ぶのだが、流石に一撃で体を消滅させる事は出来ない様だった。 「まずいね、一旦退いた方がいいんじゃないか?」 「珍しく意見が合うじゃない!」 ギーシュとキュルケの掛け合いに、ルイズは顔を歪ませる。 啖呵を切って駆け付けたものの、魔法の使えない自分はここでは足手まといだ。 クロコダインもゴーレムと戦いながらもこちらを気にしているせいか、全力を出せないように見える。 だが、背を向けて逃げ出すのは嫌だった。若い頃戦場を駆け、数多くの武勲を誇った母親の子として、弱きを守る者こそが貴族と教えてくれた父親の子として。 そんなルイズの目に、ゴーレムの手が鋭く尖って塔に突き出されるのが見える。 ルイズは咄嗟にありったけの力を込めて、フレイムボールの呪文を唱えた。 学院に大きな爆発音が轟く。 「何なんだい!」 悪態をつきながらフーケが前を見ると、塔に突き出した筈のゴーレムの腕が肘から消失していた。 「嘘だろ!? 鉄製に『錬金』しておいたってのに!」 どんな魔法かは判らないが相当な威力なのは確かだ。これはヤバいかともう一度前を見て、しかしフーケはこちらに運があると確信した。 ゴーレムの一撃が効いたのかさっきの爆発のおかげなのか、難攻不落だった宝物庫の壁に見事な大穴が開いていたのだ。 フーケはゴーレムに時間稼ぎを命じると、フードをかぶって宝物庫へと飛び込んだ。 ゴーレムの腕が吹き飛ぶのを、ルイズは信じられない気持ちで見ていた。 自分が唱えたのはフレイムボール、しかし杖から炎は出現しない。だが失敗した筈の魔法は元の魔法とは比べ物にならないほどの凄まじい威力を発揮している。 「ちょっと、やるじゃないの!」 笑顔でキュルケに言われるが、正直実感が湧かない。 「凄いな、でもあれを教室で披露はしないでくれよ? 命に関わるからね」 ギーシュが皮肉交じりに、しかし感心した様子で話しかける。 「やりすぎ」 タバサが無表情に、でもどこか焦った様子で指摘する。 「やりすぎ?」 ルイズ達はそこでようやく壁の大穴に気がついた。 「…………」 一瞬の沈黙の後。ルイズはゴーレムを見上げながら叫ぶ。 「学院の宝物庫に穴を開けるなんて! 敵ながら凄い実力の持ち主だわ!!」 うんまあそういう事にしておこうか、と学友達は思った。 「遊んでいる場合じゃないぞ、気を付けろ!」 再び動き出したゴーレムを見てクロコダインが注意する。 「間合いを取って、魔法で攻撃」 「もう一回派手な失敗頼むわよ、ルイズ!」 「いちいち引っかかる言い方ね!」 颯爽と、機敏に、あたふたと、生徒達はゴーレムから一定の距離をとるのだった。 薄暗い宝物庫の中、フーケは素早く辺りを見回す。人の気配なし、宝物が衝撃で壊れた様子なし、OK、今のところ問題なし。 取り敢えず片っ端から盗んで行く訳にはいかない。大量の盗品を捌いている余裕はないのだ。 だからと言ってサイズの大きな物を持ってはいけない。何か、適度に小さくて尚且つ高く売れそうな物はないか。 そんな彼女の眼に、ある物が映った。30サントほどの黒い筒状の何か。 学院長の秘書をしていたフーケは、それがオールド・オスマンが個人的に納めたというマジックアイテムだという事を思い出した。 使い方は分からないが、マジックアイテムという物は魔力を通せば動くと相場が決まっている。 フーケは筒を懐に入れ、レビテーションで下に降りようとして、 「おでれーた! まさかこんな所に盗みに入る奴がいるたぁ思わなかったぜ!」 突然声を掛けられ動きを止めた。 杖を構えて周囲を見渡すが、人の姿も気配も感じられない。 「おーい、どこ見てんだ。ここだよ、ここ!」 声のする方を見ると、そこには一本の剣があった。 おそらくは壁に飾られていたのだろうが、先ほどの衝撃のせいか床に落ち、鞘から刀身が半ば抜け落ちている。 「なんだ、インテリジェンス・ソードか」 フーケは溜息をついた。武器に意識を与えたインテリジェンス・アームズは別に珍しいものでもない。 「いやいや、そう言わねぇでくれよ。ちょっと姉ちゃんに頼みがあんだ」 「何よ」 「ついでと言っちゃあなんだが、俺も盗んでってくれね?」 「……ハァ?」 フーケがマジックアイテムを盗み出すようになってそれなりの月日が立っていたが、自分から盗んでくれと言いだすお宝は初めてだった。 「ほら、俺ってば見ての通り剣だろ? 斬ってナンボの商売なのにこんな蔵の中にいても仕方ないと思わね?」 言ってる事はもっともだが、刀身に思いっきり錆びの浮いている長剣を盗むメリットをフーケは思いつかなかった。 大体150サントはあろうかという剣など邪魔にしかならない。特にこれから逃げようという時には。 故にお喋りな剣は無視していこうと背を向けたのだが、剣はわざとらしい口調でこんな事を言った。 「あー、このまま置いてかれちゃったらあんたの特徴とかペラペラ喋っちゃうだろうなー、俺」 速攻で床ごと『錬金』してやろうかと思ったが、そんな時間も精神力も惜しい。 フーケは無言で剣を拾い上げると最後に1つお約束の仕事をして、壁の大穴から飛び降りたのだった。 突然ゴーレムが音を立てて崩れ始めた。 30メイルのゴーレムが土の塊に戻るのだから、当然大量の砂埃が舞い上がり、離れた場所にいるにも拘らずルイズ達の視界が塞がれる。 「なによ突然!」 叫び声を上げる彼女達に駆け寄るクロコダインだったが、予想外の現象は更に続いた。 周囲の土が盛り上がり、ドーム状になって彼らを閉じ込めたのである。 「きゃっ!?」 それまで塔から洩れる明かりや月の光で薄明るかったのがいきなり真っ暗になって、ルイズ達は悲鳴を上げた。 「ったくもう!」 キュルケが短く呪文を唱えると、拳大の火の玉が三つ浮かび上がり、辺りを照らす。 攻撃に加わっていた全員が10メイル程のドームの中にいるのが判る。幸い誰も怪我などはしていない様だった。 タバサがドームを杖で叩くと硬質の音がかえってくる。 「多分、鉄製」 土メイジのギーシュもドームに触って材質などを調べ始める。 「これは結構ぶ厚いぞ。土とかに『錬金』するのも時間がかかりそうだ」 「そんな! フーケに逃げられちゃう!」 そんな中、クロコダインは拳で何回かドームを叩いた後、ルイズ達に忠告した。 「今からこいつを破るから出来るだけオレから離れていてくれ。それと耳も塞いでおいた方がいい」 「判った、任せるわよクロコダイン」 主からの信頼の言葉に、クロコダインは太い笑みを返す。 彼女達が反対側の壁まで下がり、タバサが『サイレント』の魔法を唱えるのを見届けると、クロコダインは愛用の戦斧を逆手に持って逆袈裟に斬り上げた。 「唸れ!爆音!!」 グレイトアックスが壁にぶつかるのと同時に魔宝玉に秘められた爆裂系呪文が発動し、鉄製のドームを1/3程も吹き飛ばす。 「うええええええ!?」 「な、なんて威力なの……!」 感心する同級生を尻目に、タバサがドームの外へ出る。 既に外に出て周囲の気配を探っていたクロコダインに、「中を見て来る」と言い残し、『フライ』で宝物庫へと飛んだ。 半ば予想していた事だが宝物庫の中に人の姿は無い。 ぐるりと周囲を見渡して、タバサは壁に何か書いてあるのに気がついた。 [ 神隠しの杖と伝説の剣、確かに領収致しました。 土くれのフーケ ] 流麗な書体で書かれたその署名を見て、タバサは小さく呟いた。 「目立ちたがり」 前ページ次ページ虚無と獣王
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迫る7万の大群を見据えながらルイズは禍々しい鞘に入ったままのデルフリンガーを構えて「アムド」と唱えた。その瞬間、鞘が蟹の様に広がってルイズの体を包む。変形した鞘は頑強な全身鎧へと変わっていた。兜に仕込まれたデルフリンガーが軽妙な口調でルイズに喋りかける。 「いやぁ~何回見てもすげぇよなその鎧。おまけに魔法を無効化すると来たもんだ。おかげで俺涙目」 「でもライトニングクラウドの雷は防げなかったじゃない。おかげでワルドの時は随分苦しめられたわ」 「あんときゃ俺の独壇場だったねぇ。雷バンバン吸い込んでやったらしまいにゃワルドが泣きそうな面になってたし」 そう言って一人の少女と剣は笑い合った。これから行う決死の大仕事をしばし忘れるかの様に。 ひとしきり笑った後ルイズは兜のデルフリンガーを取り外した。そのまま剥き出しの魔剣を右手に構える。 「さぁお喋りは終わり。この鎧に『彼』の技に喋る魔剣。伝説尽くしのこの凄さをたっぷり味合わせてやらないとね」 「きっと敵さんビビリまくるだろうねぇ。まぁ任せとけって、どんな魔法が来たって俺が全部吸い込んでやるからよ。相棒!」 「頼りにしてるわね、デルフ……。――来たわ!」 デルフリンガーにキスをしてルイズが叫んだ。右手のデルフリンガーを地面と水平に持ち上げ右肘を引き、開いた左手を剣先に置く。突きの構えになったルイズが敵の軍勢に狙いを付けた。 ルイズの左手に刻まれたルーンが眩い光を放ち。そのまま捻りを加えた猛烈な一撃を敵に目掛けて解き放つ。 「狙うは指揮官のみ!さぁ行くわよ!!ブラッディースクライドぉーーー!!」
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前ページ次ページ虚無と爆炎の使い魔 ――第7話―― 「どうしたの……もう終わり?」 二度目の沈黙が訪れたヴェストリの広場に、ルイズの冷厳な声が響く。だが周りからの反応は無かった。ルイズ達を取り囲をでいるギャラリー達のほとんどは、口を開けたまま言葉を失っている。 ――あの『ゼロ』が、ギーシュを圧倒している―― にわかには信じ難いその光景を目にした事で、それ以外の事が思い浮かばなかったのだ。 「ふ、ふん。い、いい気になるのはまだ早いんじゃないかな?僕のワルキューレは七体まで出せる。君はまだ二体を倒したに過ぎないのだよ?」 三体目のゴーレムを錬成し、挑発ともとれるルイズの言葉を、どもりながらギーシュは反論した。とは言え、それは外見だけの話であるのだが。 ギーシュは内心焦っていた。その表情には、これまでの余裕は無い。決意に燃えるルイズの気迫に、どこか圧されていたのだ。錬成したワルキューレの背中越しに、ギーシュが前を見遣る。 予想外の展開に、周囲がざわつく中、ピンク髪の少女だけは、微動だにしない。彼女の方が優位であるにも関わらず、である。周囲に目を向ける事も無く、ただじっと、自分の出方を伺っていた。 ――どうすれば良い?―― このまま何も出来ずにやられるなど、みっともない事この上無い。そう思い込むと、こと格好を付ける事に関しては、とても優秀な、ギーシュの薔薇色の脳細胞が再び活性化を始めた。 そう、全てはルイズの爆発に尽きる。どういう訳かあの落ちこぼれは、いつの間にか爆発をコントロールする術を見つけていたらしい。そこまで分析した途端、はっ、と気付く。 ――そうだ、爆発をコントロールできると言うのなら、何故僕をさっさと吹き飛ばさない?―― 疑問と違和感が同時に浮かんだギーシュは、先のワルキューレが倒された光景を思い出す。確かあの時は、自分とルイズとの中間辺りで爆発した……。それらの事象に共通する事柄と言えば―― 「そうか、距離だ。君の爆発は射程が限られているね?おおよそ、10メイル強と言った所か!?」 「!!」 ルイズがどきりとした。その顔を見たギーシュは、ほくそ笑む。どうやら自分の推理は間違ってなかったらしい。 ここに来る前、ルイズは何度か試し打ちを行っていた。結果は……ギーシュの推理通りである。それ以上の距離を狙っても、てんで当たらなかったのだ。昨日の戦いの時は、もっと調子が良かった筈なのだが……。 ――ううん、あれは例外ね―― ルイズが頭を振る。あの時は死に物狂いだったのだ。それはキュルケ達が最後に放った炎の竜巻などを見ても明らかである。ハドラーと戦った全員が、限界、いや、むしろ限界以上の力を捻り出していた節すらあった。 ともあれ、今の自分には、そこまでの力を出せそうには無い。ルイズはそう思うと、自嘲気味に目を伏せた。その様子に、ギーシュは更に気を良くする。 すっかり立ち直り。落ち着きを取り戻していた頭には、先程までは気付けなかった新しい情報が、次々と舞い込んで来ていた。 ――なら、次だ―― 自分の予想を確かめるべく、ギーシュが杖を振った。先程の光景を再現したかの様に、ワルキューレが三度目の突撃をかまして来る。はっ、と顔を上げたルイズは、魔法に集中すると、前方へと杖を向けた。だが―― 「今だ!」 ギーシュが杖を振ると、ワルキューレが横に跳んだ。一歩遅れて、先程までゴーレム達がいた場所に、爆発が起こる。 「避けた!?」 目を丸くして、またもルイズが驚いた。その表情にギーシュは、再び自分の予想が当たっていた事に思わず雄叫びを上げそうになる。 だが貴族たるもの、それを表に出す様な下賎な振る舞いはするべきではない。すんでの所でそう思い直したギーシュは、手にしている薔薇を口元に持って来て、ただニヤリと、不敵な笑みを浮かべた。 「僕を甘く見ない事だね。君の魔法はさっきまでのやり取りで、把握したのだよ」 「くっ!」 口上の間、動きが止まっているワルキューレに、ルイズは再び杖を向けた。その光景を見たギーシュが、ほぼ同時に、杖を振る。 先に反応したのはワルキューレの方であった。地面を蹴ってその場から離れた直後、破壊すべき対象がいなくなった無人の空間に、再度爆発が起きる。 「君のそれは、平民どもの持つ銃みたいなものだ。一度に一発ずつしか撃てない上に、集中が必要な所為か、狙ってから爆発までの間に隙がある。そうと分かれば話は簡単だよ。君が杖を向けた瞬間に、その射線から外れるだけで、簡単に避ける事が出来るのだからね」 鼻高々な様子で説明をしたギーシュが杖を振ると、ワルキューレが前後左右に軽快なステップを踏む。この動きについて来れるのかい?と言わんばかりの、見え見えのデモンストレーションであった。 ワルキューレがステップを踏んでいる間も、ルイズは呆気に取られたままであった。自分の魔法にそんな弱点があったなど、気付きもしなかった。 ――そう言えば、今まで動かないものばっかり狙ってたわね―― ルイズがふと思い出した。昨日のハドラーは、戦いの間碌に動かなかったし、ここに来るまでに、試し打ちした石や岩は言うまでもない。先のニ体も、一直線に突撃して来たからこそ命中したのだろう。 とはいえ普通のゴーレムでは、決してこう言った展開にはならなかったろう。ゴーレムというのは普通もっと動きの鈍いものだからだ。 ギーシュの操作技術が中々優秀な事、ワルキューレの中が空洞であり、その分身軽な造りだった事。これらもろもろの出来事が今の事態を生んでいた。 (もっとも、ワルキューレの中身が空っぽなのは、単にギーシュの力が足りないだけだったのだが) 「降参したまえルイズ」 検証とデモンストレーションを終え、自分の下にゴーレムを戻したギーシュは、高みから見下ろす様な視線で、ルイズに告げた。 「……何ですって?」 「降参したまえと言ったんだよルイズ。今ので分かっただろう?所詮、君の魔法では僕のワルキューレに勝てない」 すっ――と、ギーシュの目が冷たさを増した。 「これは警告だよ。次は三体を同時に掛からせる。その意味が分かるだろう?」 「……」 ルイズは黙ったままギーシュを睨み付ける。分かっている。例え一体を爆発させられても、後の二体が自分へ襲い来ると言う事だ。その上、自分の爆発の弱点については、先程ありがたい解説を頂戴したばかりである。だからと言って―― 「……降参は、無しよ」 自身の『目的』は一応達成出来た。だがメイドとの、ハドラーとの『約束』は、まだ残っている。何が何でも、この決闘は、負ける訳にいかなかった。 ルイズの言葉を神妙な面持ちで聞いたギーシュだったが、やがて芝居掛かった仕草で顔を押さえると、頭を振った。 「やれやれ……。女性を傷付けるのは僕のポリシーに反するのだが……仕方無い」 ギーシュが新たに二体のワルキューレを作った。 「医務室のベッドで少し頭を冷やしたまえ。行け!ワルキューレ!」 ルイズのいる場所に杖を向け、叫ぶ様にギーシュが命令を下した。主人に頷く事も無く、指示を受けた三体の戦乙女達は、ただ黙って横一列となり――真っ直ぐ突撃して来た。 「――来たわね!」 ルイズが僅かに片足を引いた。前足へ体重を乗せて、やや前傾気味になり、いつでも走り出せる様に体勢を整える。距離を詰めていたワルキューレ達がハドラーの前を通過し、ルイズの射程距離に入った。その時―― 「散れ!」 ギーシュの掛け声に合わせ、左右のワルキューレが斜め前方へと加速した。中央のゴーレムを頂点とした三角形を作って、ルイズを包囲せしめんとする。 ――今だ!―― 囲んで来るであろう事を、あらかじめ予想していたルイズは、散会した直後、杖を正面――中央にいたゴーレム――へ向けた。同時に、少女の手の動きを注視していたギーシュも、それに反応して、杖を振る。 瞬間、一直線にルイズへと向かって来ていた正面のワルキューレが、弾かれたように、右に跳んだ。その直後、またも一歩遅れる様にして爆発が起きる。 ギーシュが解説した通りの展開である。――やはりルイズの魔法では――多くのギャラリー達がそう思ったその時だった。 「!」 観客達の目が、突如、釘付けになる。空振りに終わった筈の、爆発の中から突然、ルイズが姿を現したのだ。 魔法を唱えたと同時に、ルイズは前方へ駆け出していた。自分の爆発はおそらく確実に避けられる。ならば避けた隙を狙って、包囲を突破し、一気にギーシュ本人を叩く事を考えたのだ。 ワルキューレの脇をすり抜けたルイズは、作戦が上手くいった事を内心で喜ぶ。だが―― 「そう来ると思ったよ」 どこか冷めた様な声が聞こえた次の瞬間、ルイズの身体を衝撃が襲った。いつの間にか、ギーシュが錬成していた四体目のゴーレムが、ルイズに強烈な体当たりをかまして来たのだ。 完全に予期していなかったタイミングでの攻撃に、ルイズの身体が派手に吹っ飛んだ。 「う……」 勢い良く地面を何度も回転し、仰向けになってようやく開放されたルイズは、苦し気な呻き声を上げる。その直後だった。 「チェック・メイトさ」 唐突なギーシュの宣言と同時、ルイズの両腕にいきなり重みが走る。二体のワルキューレ達が、ルイズの腕を踏みつけていた。足元にも、いつの間にかもう一体が待機している。三方から完全に組み伏せられた格好だ。 ルイズは何とか抵抗しようとしてみたものの、女の自分ではとても動かせそうに無い様だった。それでも脱出しようと懸命に抵抗する。 もぞもぞと身体が動く度に、男性ギャラリーからの熱い視線が大いに注がれた。何故か半裸且つ、全身が軽い火傷だらけの、小太りな生徒などは、熱心を通り越し、もはや生肉を前にした獣の目つきとなっている。 「さて、これで君の動きは完全に封じた訳だ……だから、これが最後だよ。まだ、やるのかい?」 余裕と、少しばかりの嘲りが混じった顔をしながら、ギーシュが言った。ルイズは僅かに首を持ち上げ、声の主を見る。 視線の先のギーシュは、ニヤついた笑みを浮かべていた。『ゼロ』如きが自分に敵う訳が無い。そんな笑いである。 ――負けられない―― そう、より一層の決意を固めたルイズは、ギーシュの目をきっ、と見返すと、力を込めて返答した。 「ええ、勿論よ。……その表情が変わるまで、何度だって、やってやるわ」 ルイズの力強い声に、ギャラリー達が湧いた。いいぞー、と素直に応援、又は、面白がる者。この状況で何を言わんとするや、と呆れ顔な者。その反応は様々だ。 ギーシュの反応は後者の方であった。肩をすくめながら、やれやれとばかりに息を吐く。 「まったく、君の負けず嫌いには恐れ入るね。……まあ君の気持ちは、この僕も良く分かった」 ギーシュが杖をげ掲げた。同時に、ルイズの腕に、更にゴーレムからの圧力が増す。 「――これ以上、妄言を吐かなくても済む様に、僕も協力しようじゃないか。やれ!ワルキューレ」 ギーシュの命令で、三体のワルキューレが一斉に腕を振り降ろした。観衆が目を見張る。ほんの数秒後には、その無慈悲な冷たい拳が、ルイズの全身に食い込むに違いない。そう、誰もが確信したその時だった! 「――負ける、かああああ!!」 手首を反し、杖先を自分の目の前に向けたルイズが、咆哮を上げた。瞬間、目標まであと数サントに迫ったゴーレムの腕が、いきなりあらぬ方向にひしゃげる。皆に見えたのはそこまでだった。そして―― ヴェストリの広場に大爆発が起きた。今までのやり取りが、ままごとに見えた程の激しい爆風と轟音が発生する。 数秒後、近くにいたギャラリー達のローブは根本からめくり上げられ、耳の中はしきりに異常を訴えていた。空高くまで上がる土煙が、今も引き続き、規模の大きさを主張し続けている。 「な……何が起こったんだ!?」 狼狽をした顔を隠そうともせず、ギーシュが困惑した声を上げた。状況を確認したいものの、爆心地では今も熱と土煙が立ち上っている。その時だった。 「ん?何だ?」 突如眼前の地面に降って来た何かの欠片を見て、ギーシュが声を上げた。だがその直後、 「う、うわあっ!!」 ギーシュの声がひっくり返った。同じ様な欠片が大量に、雨の如く上空から降り注がれたのだ。 一体何事だ?そう思ったギーシュの前に、少し大き目な『それ』が、足元に転がった。 「――!!」 ギーシュの顔がみるみる青くなる。真っ黒に煤けたそれは、間違いなくワルキューレの頭に付いた羽飾りであった。ということは―― 「まずい、ワルキューレ!」 ギーシュが慌てて残ったゴーレムに命令しようとしたその瞬間、少し離れた場所にいた乙女像が、派手な爆発音を上げて破壊される。その後ろからは、風で舞い上がった桃色の髪――ルイズが、眼光鋭く顔を覗かせていた。 『――!!』 まるで昨日の『悪魔』を思い出させるその姿に、誰もが一瞬、息を呑む。 その一瞬の隙を突き、ルイズは動き出した。 「爆発の……特徴?」 決闘の少し前、ヴェストリの広場へ向かう途中、ハドラーが投げ掛けた言葉に、ルイズが首を傾けた。 「うむ。主の爆発で、一つ気付いた事がある」 「それって……?」 やや緊張した顔のルイズが聞き返す。間を置いて、ハドラーが切り出した。 「距離だ」 「……距離?」 「そうだ。どうやら主の魔法は、距離が近い程威力が高くなるらしい。昨日の戦いや、教室での出来事を思い出してみよ」 言われてルイズは、記憶を探り出した。昨日からこっち、間近で魔法を使った事と言えば……ハドラーの懐に飛び込んだ時と教室で『錬金』を唱えた時だ。成る程、いずれの場合も、普段の爆発に比べ、遥かに規模が大きかった。 「……ええ、確かにそうね」 回想を終えたルイズが、同意する。中断していた授業が再び始まる様に、ハドラーは淡々と、先を続けた。 「恐らくは、威力を高める事だけに、集中出来るから、なのだろうな。爆発させる場所が自分の目の前ならば、いちいち狙いを付ける必要も無い」 ハドラーの言葉にルイズが、はあ、と感心じみた声を上げる。ただがむしゃらに唱えていただけの魔法に、そんな違いがあったとは思いもよらなかった。 「……何だか、悔しいわね」 「何の事だ?」 訝しげに眉根を寄せたハドラーを、ルイズは、じっ、と見つめた。 ――自分がずっと探していた答えを、この男は、いともあっさり見つけてしまう―― 何とも言えぬ胸中に、使い魔(仮)に対しての、嫉妬や羨望にも似た、色々な感情が混じり合う……。そんな、石膏で固まったみたく、渋面を崩さないルイズに対し、ハドラーは、軽く息を吐くと、諭す様な口調で語り掛けた。 「俺は、闘争のみに生きて来た様な男だ。……主の魔法の事も、それに当て嵌まっただけに過ぎん。この世界の魔法とは異なるものの、俺も『爆発』の使い手なのだからな」 そう言って、ニヤリと笑う。ハドラーに、自分の心をずばり言い当てられてしまい、ルイズの顔は、みるみる間に赤くなった。 「な、何で……」 「以前の俺もそんな表情をしていた事がある。今の主が何を思っているのか、何と無く分かるつもりだ」 やや自嘲気味に話すハドラーの胸に、かつての部下であった男の姿が浮かんだ。自分を越える力を持ち、勇者の父親でもあった男。大魔王が奴に信頼した声を掛ける度に、自分も同じ様な顔をしていた事を思い出す。 「……主はいずれ強くなる。焦る必要は無い」 「そ、そう……?」 あくまでも真摯な様子で問くハドラーに、さっきとは違う理由でルイズは赤くなる。が、 「……しかし、主は非常に分かりやすい顔をする。俺もそうだったが、戦闘中は、あまり感情的にならない事だ」 付け加えられたダメ出しに、ルイズは顔を通り越し、頭まで真っ赤にするのだった。 問答を思い出し、ルイズが足を踏み出す。先程の一撃で負傷している上、体力、精神力ともに、限界に近い。それでも、何とか下半身の筋肉を総動員し、怒涛の勢いでギーシュへと向かって行った。 「う、うわああああ!」 視線の前方にいるギーシュは、パニックに近い悲鳴を上げた。ばたついた動きながらも、一足跳びで、ルイズから離れると同時に、腕を振り上げる。 ――このままじゃ間に合わない―― ワルキューレが錬成されてしまえば自分の負け。そう判断したルイズは、足を止める事無く、咏唱を始める。 何と無く気付いていた。自分の魔法は、自身の感情そのものであると。怒り・闘争心……自分の中にある、火の様な想いが、爆発の威力を強くする。だが……。 ――感情的にならない事だ―― ハドラーの声がこだまする。確かに、感情は大きな力である。だがそれだけでは、敵は倒せない。全てを理解した上でルイズは思案した。今自分が何を求め、どうするべきか。 ――威力は要らない。欲しいのは距離。そして、それに必要なのは恐らく―― 半ば確信した様子で、ルイズは今までとは違うイメージで集中した。心を昂ぶらせるのでは無く、氷の様に尖らせる事。――獲物に飛び掛からんとする肉食獣の如く、今、準備は完了した。 「ワル、キューレェェェ!」 必死の形相で、薔薇を振り降ろすギーシュに、ルイズは真っ直ぐ杖を向ける。先端が指し示した、ただ一点だけを狙い、丹精に作り込んだガラス細工を叩き付ける様に、小さく、短く叫んだ。 パン、と軽い炸裂音が広場に響く。隙の無い一撃だった。が、速度を優先した分、威力や規模などは、さっきまでのものとは比較にもならない。だが―― 「なっ!?」 ギーシュの顔が驚愕で歪む。ルイズの爆発は、恐ろしい程の正確さで、ギーシュの手を撃ち抜いていた。衝撃に手放した薔薇が、スローモーションの様に空中を舞う。そして―― だん!、と、音が響く。前足を地面に打ち付けて、ルイズは止まった。膝を曲げ、前傾した上体は、剣士が『突き』を放った様にも見える。 ――いや、それはむしろ『突き』そのものだった。足と同様に真っ直ぐ伸ばされた腕。その先端に構えられている杖は、正確に、ギーシュの胸へと向けられていた。 風が――吹く。観客は皆、頭が麻痺でもしたかの様に、言葉を発しようとはしない。ギーシュですら、その中の一人に含まれていた。目を見開いたまま、魂をどこかに置いて来たかの様に固まっている。――その時。 ひゅん、と、ギーシュの頬を、何かが掠めた。急に襲って来た鋭い痛みに、ギーシュが手をやる。 「え……?」 掌にべっとり付いた血に、ギーシュが呆然とした表情で尻を着いた。落ち着かない様子でしきりにまばたきを繰り返す。その視線の先には、赤く染まった自分の杖――薔薇――が転がっていた。 「あ…………」 間の抜けた一言を最後に、ギーシュから反応が消えた。やや間が空き、やがてゆっくりと構えを戻したルイズは、大きく息を吐く。静寂な広場に少女の呼吸音が響き渡る度、止まっていた周囲の時間は、少しずつ動き始めた。 「お、おい……」 「ああ、これってまさか……?」 ざわつきが少しずつ、だが、着実に大きくなっていく。立っている者と倒れている者。そこから浮かび上がる一つの事実が、この広場に立ち込めようとしていた。 「嘘……だろ!?『ゼロ』のルイズが、ギーシュを……?」 一度決定された事実は、もはや覆る事は無かった。誰かの発したその一言は、波となって、徐々に大きくなっていく。 「マ、マジかよ!?」 「『ゼロ』が『青銅』を……!!」 「ま、まだ慌てる時間じゃない!これはきっと孔明の(ry」 どよめきが刻一刻と場を支配していく。そんな中、ようやく呼吸を整え終えたルイズは、ふと、周りの様子が変化している事に気付き、顔を上げた。 「あ……」 視線の先には、友人達の姿があった。ルイズと目が合うと、キュルケは、穏やかな表情を浮かべ、タバサは親指を立てる。 そのの仕草で、ようやく事態を察したルイズはぐるりと周りを見渡した後、照れ臭そうに笑う。 ――どよめきは、歓声へと変わった。 ――僕は……―― 騒ぎの中、ギーシュは未だ、虚ろな思いに囚われていた。 ……余裕の展開になる筈だった。その上で、自分は鮮やかに勝利を収め、目の前の娘に、貴族というものについて教育してやるのではなかったのか? ……とんだ恥晒しだ。地面の砂を掴み、ギーシュが一人思う。そんな時。 「――『ゼロ』に負けるなんて、ギーシュも情けないな」 不意打ちの様な声に、ギーシュがはっ、とした表情になった。殆ど呟きほどの声。だが、その一言が、何を意味するのか、ギーシュは気付いてしまった。 「大口叩いておいて……ざまあねぇな」 「貴族の資格が無い『ゼロ』に負けたんだろ?ならあいつは何なんだ?」 「貴族(笑)の皮を被った平民とか?」 ぽつ、ぽつ、と連鎖していく声に、ギーシュが必死に耳を塞いだが、その程度では、物音は完全に遮断出来ない。それどころか、反って敏感になった意識は、雑多な音の中から、自分へ向けられた侮蔑の言葉を、正確に拾い上げてしまう。 ――止めてくれ……止めてくれぇ!―― 学院一の落ちこぼれに敗れたという事実。それは、次は自分が、嘲笑の対象に祭り上げられる事を意味していた。耳に入り込んで来る、心無い声に、ギーシュの心が悲鳴を上げた。 ――モ、モンモランシー―― すがる様に、ギーシュは(本命の)恋人の名を浮かべた。結果は駄目だったが、途中までは自分が優位だったのだ。もしかしたら、そんな自分の勇姿に心を動かされたかもしれない。 現実逃避じみた想像をしながら、愛しい恋人の顔を探す。だが、見慣れた縦ロールの少女の姿は、どこにも見当たらなかった。 ――終わった―― 絶望的な思いが頭を支配し、ギーシュはその場にうずくまった。恋人に捨てられた上、この先ずっと、嘲笑の対象にされる。絶望を通り越して、笑い出したくなる気持ちだった。と、その時。 「?」 ギーシュが表情を変えた。今まで碌に、隙らしい隙を見せなかったルイズが、突如背中を向けたのだ。 ――ああ、そう言えば―― ルイズが勝利宣告を受けてなかった事を思い出す。が、それだけだった。気付いただけで事態が変わろう筈も無い。そう思い、再び無気力を貪ろうしたギーシュに、突然、声が響いた。 ――チャンスじゃないか。『ゼロ』は後ろを向いて、君の薔薇は目の前に転がっている―― 何を馬鹿な事を……。どこか聞き覚えのある声に、ギーシュの表情が、そう反論した。が。 ――馬鹿は君の方だ。考えてもみたまえ。君は、倒れただけで『負け』ではないのだよ?―― 囁きは止まない。先程よりも、更に強気な口調だった。それにあてられたのか、少しだけはっきりした頭が、この決闘のルールを思い出す。……確かに、まだ『負け』だとは言っていなかった。だからこそルイズはあの男に、判断を仰ごうとしているのではないか。 ――理解した様だね。なら、分かるんじゃないか?今君がやる事は、ワルキューレを作って後ろからちょいと小突く。それだけの事さ。後は適当に取り繕えば、大逆転に次ぐ大逆転。つまり……君の勝利だよ。そうなれば、モンモランシーだってきっと『僕』を―― 「君は……まさか」 ぞっとして、ギーシュが震える。馴染みある声、気取った口調、そして『僕』。それはつまり―― ――まあ、そういう事さ。僕は君、君は僕だ。だから決めたまえよ。僕の言う通りにするのか。それとも……。この先ずっと惨めなままでいるかい?―― 声は、それきり聞こえなくなった。ギーシュがぼんやりと顔を上げる。目に映ったのは、無防備なルイズの背中だった。恐らく先程の一撃でダメージを負っているのであろう。酷く頼りない足取りは、『声』の言う通り、少しつつくだけで、簡単に崩れてしまいそうだった。 ――この先ずっと惨めなままでいるかい?―― 最後の言葉が胸に浮かび、ギーシュはゆっくり首を振る。決断は下された。 息を吸って、止める。震えはもう無かった。覚悟を決め、ギーシュは素早く前方へ身体を起こすと同時に、片手で地面を凪いだ。途中、馴染んだ感触を掌に確かめると、既に完了していた『錬金』の魔法を唱える。 「ワルキューレェェェ!!」 勢いを殺さず、ギーシュは、そのまま一気に薔薇を引き上げ、目標に向けた。前方に出現した最後のワルキューレが、弾丸の様に、ルイズの元へと殺到する。 「!」 異変に気付いたルイズが振り返ろうとする。が、既に遅かった。魔法を唱える間も無く、青銅の拳が唸りを上げて襲い掛かる。 「もらったあ!」 ギーシュが歓声を上げた。もはや避けられない暴力に、ルイズが目を閉じたその瞬間―― 「――――!」 金属の擦れる音が広場を包み、戦乙女の全身は鎖に包まれた。 前ページ次ページ虚無と爆炎の使い魔